重力マイクロレンズシミュレーションについて
私たちが暮らす地球のような惑星が太陽系の外にどのくらい存在するのか—これは惑星科学における大きな問いの一つです。
1990 年代以降、太陽系外惑星が次々と発見され、現在ではその数は5000個を超えています。こうした系外惑星が放つ光は極めて微弱であり、中心の恒星が放つ眩い輝きにかき消されてしまうため、直接的な観測は容易ではありません。
系外惑星の発見には、トランジット法など、いくつかの方法が知られています。今回紹介するのは、その中でも、重力マイクロレンズ法と呼ばれる方法です。
重力マイクロレンズ法ってどんな手法?
重力レンズとはアインシュタインの一般相対性理論に基づく現象で、重い天体がその周囲の時空を歪めることによってその背後にある天体の光が曲げられる現象です。 このとき、手前の重い天体(レンズ天体)がまるでレンズのように働き、背後の天体(ソース天体)の光が複数の経路を通って地球に届きます。

天体が恒星などの小さな天体の場合は時空の歪みの程度が小さく、ソース天体の光が増幅され、時間変化に伴う光度変化が一時的な増光現象として観測されます。これが「重力マイクロレンズ現象」です。 通常恒星だけがレンズとして働く場合、光度曲線は対称的な1つの滑らかなピークを持ちます。

さてここで問題です。その恒星の周りに惑星が公転している場合、観測される光度曲線はどのようになるでしょうか? 惑星の質量も0ではないので、なにがしかの影響はありそうです。答えは、来場してからのお楽しみです。
シミュレーションを「つくる」
シミュレーションを一言に作成するとはいっても、なかなか一筋縄ではいきません。実現するには、重力による光の曲がり方がどう定式化されるのかを理解しなければなりません。
このシミュレーションは、Hくん(地球惑星物理学科4年、本ページの編者Tの同期)が作成してくれたのですが、まずその定式化が難しく、途中計算にしても「五次方程式が出てきた、どうやって解くのか[1]」と悪戦苦闘していました[2]。
この問題はなんとか解決したのですが、シミュレーションの実行には、膨大な計算量が必要です。時間分解能によって計算にかかる時間が大きく異なるため、その周辺の微調整を強いられました。 何はともあれ、この「力作」とも言えるシミュレーションを、ぜひご来場いただき、体験してみてください。
- NASA Exoplanet Science Institute. (n.d.). NASA exoplanet archive. California Institute of Technology. https://exoplanetarchive.ipac.caltech.edu/index.html
- 河原創. (2018). 系外惑星探査 地球外生命をめざして. 東京大学出版会.
- B. Scott Gaudi. (2012) Microlensing Surveys for Exoplanets. Annual Review of Astronomy andAstrophysics, 50, 411–53. 10.1146/annurev-astro-081811-12551812